15歳を超えるようなハイシニア犬では(特に)後ろ足をうまく持ち上げられず、足の甲を地面に擦ってしまう状態になることがあります。
こういう状態を「ナックリング」といいます。
足の甲から出血することもあるので靴などで保護をしますが、履かせるのに苦労したり履かせても歩きにくそうで思うように対処できないと感じている方も多いのではないでしょうか。
一方で、「散歩には行かせてあげたい」と思う飼い主さんも少なくありません(うちもそうです)。
この記事では、「なぜナックリングになるのか」
現実的な対応方法についてご紹介します。
ナックリングとは?
ナックリングとは、歩行中に足の甲を地面に擦ってしまう状態を指します。
本来、足先は地面から離れて前に出る動きをしますが筋力や関節の曲げにくさ、神経の伝達の低下などにより甲が引きずられるようになります。
よく見られる様子として
・爪や足の甲に擦り傷ができている
・真ん中の爪だけ伸びてこない
・歩くと「シャッ、シャッ」と足を引きずる音がする
・足先がひっくり返ったまま立っていることがある
・前足はしっかりしていても、後ろ足にだけ引きずりが見られる
などがあります。
なぜナックリングが起きるのか
筋力や柔軟性の低下
ナックリングは「足が上がらない」ことが主な原因ですが、その背景には筋力の低下だけでなく筋肉の硬さや柔軟性の問題も関係しています。
特に以下の筋肉が主に関係します:
前脛骨筋(ぜんけいこつきん)
すねの外側にある筋肉で足首を上に引き上げる(背屈)動きを担います。
この筋肉が弱ると足を持ち上げる動作ができずつま先や足の甲が地面に擦れるようになります。

前脛骨筋
■深趾伸筋(しんししんきん)
足指を伸ばす筋肉で、歩行時に指先の蹴り出しや地面からの離れを助けます。
この筋がうまく働かなくなると足指が地面を引っかけやすくなりつまずきやナックリングにつながります。
■腓腹筋(ひふくきん)
ヒザ裏にある主要な筋肉で、足首を伸ばす動き(底屈)に関わります。

腓骨筋(ふくらはぎ)
この腓腹筋が硬くなり柔軟性を失うと、足首が伸びたままの状態になり曲げにくくなります。
すると、足を持ち上げるための背屈動作(足首を上に曲げる動き)が制限されるためつま先や足の甲が地面に擦れるようになります。
また、腓腹筋の過緊張により後肢全体がつっぱったような状態になると安定して立つことが難しくなります。
他にも股関節や膝を曲げる筋肉の硬さや筋力低下も関係しています。
こうした筋肉の状態が、ナックリングを引き起こす一因となります。
またこれらのコリがちゃんと座れない原因の一つにもなっています
(ブログ「犬が後ろ足を投げ出して座る時」)
感覚の低下と神経伝達の鈍り
年齢を重ねると足先の感覚が鈍くなり地面に足の甲が当たっていることに気づきにくくなる場合があります。
これは足裏や指先から「触れている」「動かしている」という感覚が脳までうまく伝わらなくなるためです。
その結果、
・足が地面に当たっているのに引きずったまま歩いてしまう
・反射的な動きが遅れる
・意図せず「つま先を突っかける」ような歩き方になる
といった変化が見られます。
獣医さんが「ナックリングは神経の問題」と言われるのはこのような点からと考えられます。
こうした感覚の鈍りがあると、歩き方全体が不安定になりとっさの動きが鈍くなったりふらついたり体を歪めて歩いたりするようになります。
特に後ろ足は前足に比べそもそも感覚は鈍く、筋力が落ちやすいこともありナックリングがよく見られます。
靴を履かせるだけでは難しい理由
足の保護として犬用の靴を履かせる方も多いです。

犬用の靴は履かせるのも大変だったり・・・
靴に抵抗なく履けるワンコはいいですが以下のような問題が起きることがあります。
・靴の重さでさらに足が上がらなくなる
・足裏の感覚がさらに鈍ってバランスを崩す
・固定が甘く歩行中に脱げてしまう
・本犬が嫌がって動かなくなる
また慣れないものをつけられることにより体重のかけ方の偏り、腰や反対側の足などに負担がかかることもあるでしょう。
靴を履かせる必要もあるかもしれませんが「履かせるだけで解決する」わけではなくサポートも必要です。
散歩は行きたい、でもどうする
外に出るのが好きな子や老犬さんにとってお散歩の時間は大切です。
ただ、引きずる足での散歩はケガのリスクも伴います。
以下のような対応策が現実的です。
・地面との摩擦を減らす
・足の甲を覆うサポーターなどで傷を防ぐ
・滑りにくい路面を選ぶ
・歩く時間と距離を調整
・負担のかからない時間帯に短時間で済ませる
・室内での運動も併用して全体の活動量を維持する
・歩行補助の利用
・後肢用のハーネスやスリングで支えながら歩く
・必要に応じてカートを併用する
参考までにうちの老犬さんはアニマルコミュニケーターさんを通して
「散歩に行かないと年を取る気がするから行きたい」と伝えてきました(笑)
どうやら思うように体が動かないことも分かっているよう・・・
色々工夫してお散歩には連れて行ってあげたいと思っています。

散歩が好きなようです
家でもできる「足の意識づけ」
上記したような問題は日々のちょっとした刺激で変わることもあります。
・足先の毛に優しく触れる → 感覚への刺激
・自力で肢を持ち上げる運動 → 可動域の維持
・整体やリハビリで筋肉のバランスを整える
「感覚を思い出させる」「持ち上げる動作を促す」といった目的のケアは、シニア犬の体にとって負担が少なく有効だと思います。
触られる刺激により咄嗟に足を持ち上げる、というのは老犬の筋トレにもなります。

寝たきりのコにも使える筋トレ
整体ができること
整体ではナックリングの原因になりやすい筋肉の硬さや体のバランスの崩れに対して手技による調整を行います。
特にハイシニア犬では、
・硬くなった腓腹筋や太ももの筋肉をやわらげ関節の可動域を確保する
・足先を持ち上げやすくするために関係する筋肉へのアプローチ
・全身の筋力バランスを整え歪みを改善することで片足への負担を軽減
・感覚が鈍くなった足先への「刺激ケア」で神経の働きをサポート
整体だけでナックリングが完全になくなるわけではありませんが、
「動きやすい状態をつくる」「悪化を防ぐ」ことを目的に継続的なケアを行うことで歩く楽しさをできる限り長く保つことは可能です。
また咄嗟の対処法を知っていれば散歩先でナックリングがひどく感じた時に対応できます。
ナックリングは単に「老化だから仕方がない」と片付けず、できる対策をとってあげたいですね。
「歩くいぬ」では、ハイシニア犬の歩行ケアやご家庭でできるケアのご相談も受け付けています。